小児科一般

2022.8.22 

当クリニックPCR結果のみかた

当クリニックはBML社にPCR検査を外注委託しております。

検査結果で分かるのは以下の3点です。

1、陰性か陽性か 

2、陽性の場合、ウイルス(RNA)量が多いか少ないか。

:Ct値が低い=あんまり増幅させなくてもすぐに基準値超える=元のウイルス量多い。

個人的には、Ct値10-20:ウイルス量多い 20-30:中くらい 30以上:少ない という感覚で見ております。ウイルス量が少なく判定が微妙な場合に再検査となる場合が多いです。

3、陽性の場合、変異株か否か

:S遺伝子検出(+):従来株 S遺伝子検出(ー):変異株

「どの変異株?」までは分かりません。分かる為には遺伝子解析要=検査会社にとても大きな負担がかかります。


少し専門的になりますが、背景の説明です。

[PCRの原理]

PCR(Polymerase Chain Reaciton)法はウイルス等蛋白質の設計図であるDNAを複製する手段です。熱を加えるとDNA 2本鎖が分離し冷やすと元に戻る性質を利用します。加熱してゆるんだ隙に、一部鋳型を作ります。コロナウイルス設計図っぽい鋳型の並びが出来ていれば陽性 出来てなければ陰性と判断します。コロナウイルスに対しては通常 Orf1遺伝子 S遺伝子 N遺伝子 3カ所を増幅し判定します。 

[Ct値 Threshold Cycle

PCRを1サイクル(Cycle)回すとコロナウイルス設計図っぽい鋳型(DNA)の量は理論的には倍になります。回転させると1→2→4→8→16→32倍 と増えていき、10回転でおよそ1000倍になります。ある基準値(閾値 Threshold)を超すのにかかった回転数がちょっとで済む=元の量が多い いっぱい回転させないと超さない=元の量が少ない とよみます。例えばCt値35のウイルス量はCt値20と比べ 1/2の15乗=およそ1/33,000となります。(分子遺伝医学等の研究室でReal-Time PCRと言う元のおおよそのDNA量を計算(半定量)する手法と同一です。)

ちなみに、RNAを増幅する場合はあらかじめ一度逆転写酵素を用いてDNA化(Reverse-Transcription)し増幅できる状態にします。逆転写酵素を持つウイルス(レトロウイルス:普通とは逆にRNAがDNAを書き換えてしまう)としてはHIV(AIDSの原因となるヒト免疫不全ウイルス)がよく知られています。



2022.8.22(9.30 一部加筆)

当クリニックで比較的よく用いている漢方薬につきまして

漢方定番文献である「漢方常用処方解説」(髙山 宏世 先生著 通称「赤本」)の分類に従いざっと整理してみました。本来幅広い適応を持つ薬剤をかなり簡潔に記載した部分もあり私見も含まれ今後加筆等もあるかと思います、地道に勉強を続けます、至らない点多々ありますがどうぞご容赦ください特によく用いる漢方:赤字です。

尚、当クリニックにおいて漢方薬のおかげでかなりの部分、不要と考えられる抗生物質を使用せずに済んでおります(例、呼吸器感染症:麻黄湯・桂枝湯・葛根湯・葛根湯加川芎辛夷・柴胡桂枝湯・桔梗湯・小柴胡湯加桔梗石膏・麦門冬湯、消化器感染症:半夏瀉心湯・五苓散・建中湯、尿路感染症:猪苓湯 / 猪苓湯合四物湯、免疫力底上げ:十全大補湯・補中益気湯・建中湯、等々

味はそれぞれ色々です、処方薬を服用して下さると嬉しいですが難しい場合もあることは承知しております・・・。

1,解表剤

麻黄湯:小児感冒初期(発汗前)に発汗させて治す漢方。実証カゼ初期漢方 定番中の定番。インフル初期に適応がある事で知られている。乳児の鼻閉や肺の水毒(喘鳴等)を合併する場合更に良い適応。

・桂枝湯:原料ほぼ食材漢方。妊婦さんにも使用できる優しいカゼ初期漢方。麻黄湯と混じ桂麻各半湯とする場合も。

葛根湯:知れ渡っている超有名漢方。感冒初期は勿論、胸から上の炎症や痛み(乳腺炎・角結膜炎・中耳炎・リンパ節炎・肩こり・上半身神経痛)にかなり広い適応があるのが奥深い点。「頚部の張りや肩こりを伴う感冒初期」「耳痛を訴えるが鼓膜発赤混濁なく抗生剤非適応」「頚部リンパ節腫脹疼痛あるが複数腫脹があり抗生剤非適応」などの場合に使用。

葛根湯加川芎辛夷:葛根湯が持つ幅広い範囲の炎症への作用を鼻周囲に凝縮した感じの漢方。ねっとり鼻汁を伴う鼻閉・蓄膿症に効果高い印象あり、頻用中。

・小青竜湯:アレルギー性鼻炎・鼻カゼ(水様鼻汁)に。味は酸っぱい。

・五虎湯:小児用咳止め。通常の鎮咳剤で咳が止まらず本人が辛い場合に追加、等。

2,和解剤

・小柴胡湯加桔梗石膏:長引く喉痛に。

・柴胡桂枝湯:だるさや節々の痛みが長引く感冒に。

芍薬甘草湯:筋肉が急に収縮して痛い病態に。内臓の筋肉にも有効。「足がつった」:服用後平均6分で効果ありとも言われている。私自身は車、ゴルフキャディバッグ、寝床に常備。「腸が動きすぎて腹痛」「尿管結石による疼痛」「排卵痛」等にも適応可。

・加味逍遙散:比較的虚弱でイライラ、hot flashに。

半夏瀉心湯:消化管全体の炎症を抑える漢方。適応は口内炎・神経性胃炎・嘔吐下痢等で成人胃腸炎漢方の定番。抗生剤非適応の血便・細菌性腸炎疑いの方にも使用。二日酔いに適応あり有効、胸焼けしない!黄連解毒湯との「宴会セット」は対二日酔い最強デュオ。

3,表裏双解剤

・五積散:上半身がほてり下半身が冷える「冷えのぼせ」に。クーラーで冷える方。

・参蘇飲:シソの一種入りカゼ漢方。「胃腸に優しいご高齢者用葛根湯」「カゼを引くと気落ちする方」

4,瀉下剤

・麻子仁丸:便秘漢方

・潤腸湯:便秘漢方。

5,清熱剤

白虎加人参湯:ほてりを冷ます。熱中症・夏のほてりに伴う痒みで悪くなるアトピー性皮膚炎に使用中。「ほてりに伴う痒み」には越婢加朮湯と組み合わせると結構有効な場合もあり。味は悪くない(きな粉みたい)との皆様のご感想。

・黄連解毒湯:顔面紅潮しイライラ(気逆)への漢方。半夏瀉心湯との「宴会セット」は対二日酔い最強デュオ。

・温清飲:冬場に乾燥して増悪するアトピー性皮膚炎の方へ。

桔梗湯扁桃炎に伴う痛みを軽快させる、原料ほぼ食材漢方。桔梗の根と甘草 2種類のみの生薬。桔梗の根は某焼き肉チェーン店でキムチとして提供されたりしている。個人的感想だが一番味がいい漢方薬。

・治頭瘡一方:重度脂漏性湿疹等、べとっとした湿疹で外用薬のみでは改善が難しそうな場合に使用することあり。

・猪苓湯 / 猪苓湯合四物湯:頻尿・排尿時痛でかつ尿検査で細菌感染らしくない尿路炎症に使用。クーラー効き過ぎ等冷えが関わっていそうなら猪苓湯合四物湯、単純に炎症が強そうなら猪苓湯、と使い分けている。処方頻度は猪苓湯合四物湯 > 猪苓湯。

6,温裏補陽剤

・大建中湯:原料ほぼ食材漢方。腹部の冷え・膨満感を目標に使用。以前消化器疾患の分野で権威ある「Gastroenterology」という超一流雑誌に掲載され話題となった。

建中湯原料ほぼ食材漢方。主に小児で使用。虚弱体質をお腹から改善する感じ。桂枝湯(優しいカゼ漢方)にとても似た桂枝加芍薬湯(しぶり腹等に使用)に膠飴(こうい:麦芽を炒った飴:オリゴ糖から成る 善玉細菌の餌になる(プレバイオティクス))を追加。比較的長期間にわたる便秘にも下痢にも使用。時間をかけた虚弱体質改善に使用。カゼも引きにくくなる印象。

・呉茱萸湯:冷えを伴う慢性的な頭痛に使用し鎮痛解熱剤の使用頻度を下げる。ものすごく苦い(個人的にはビールの苦みを5倍にした感じ 「服用前に飴を準備しといて」とお話ししている)一方、一定の効果ある印象。五苓散と組み合わせるとより頭痛をコントロールできる場合あり。

・当帰四逆加呉茱萸生姜湯:末梢の冷え(レイノー現象等)に非常に時間を掛けて薬効を期待する漢方。

7,補気剤

補中益気湯:「元気出す系」漢方の中心中の中心。「漢方常用処方解説」通称「赤本」には「古今名包中の傑作」との記載もあり。

8,補血剤

・四物湯:血虚に対する基本的処方。私自身は十全大補湯、温清飲、猪苓湯合四物湯等、四物湯を含む漢方を頻用している。

9,気血双補剤

十全大補湯:気虚+血虚に用いる。小児急性中耳炎ガイドラインには「免疫賦活作用+栄養改善作用により反復性中耳炎頻度減少効果を有する」という主旨の記載あり、通園開始直後 あまりに目に余って感染を反復し頻回の受診を要する方に使用する場合あり。肛門周囲膿瘍にも有効。地黄という生薬による下痢には注意。

10,滋陰剤

・麦門冬湯:喉や気道を潤し、激しい乾いた咳、痰が絡んで出しにくい場合に使用(痰が元々多いときは避ける)。喉や気道を潤す作用から補中益気湯と組み合わせシェーグレン症候群に伴う口渇に使用し、かなり有効な印象の方あり。

・清暑益気湯:夏バテに。

11,理気剤

半夏厚朴湯:喉が詰まった感じがして咳が出る方、心因性咳嗽を想定し使用する場合が多い。「喉がつまる感じ」は「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん:あぶった肉が詰まっているよう)」「梅核気(ばいかくき:梅の種が詰まっているよう)」(いずれも吐こうとしても飲み込もうとしても取れない)、ヒステリー球とも言われており、本剤選択する際良い指標となる。実際に使用すると、全然効果がないか かなり効果あるかどちらか、という印象。

・香蘇散:シソの一種入り漢方。「抑うつ傾向のある高齢者カゼ漢方」

抑肝散:イライラ系の不眠、怒りっぽい、「イライラして周りに当たって困る」等が使用目標。もともと小児の漢方だが認知症の周辺症状にも。小児夜尿症で「イライラ系の不眠あるかも」と考え使用し効果ある場合あり。

抑肝散加陳皮半夏:気鬱+過緊張+イライラに。

12,安神剤

・甘麦大棗湯:クヨクヨ系の不眠に。原料ほぼ食材漢方。個人的には桔梗湯の次に味が良く「ミロ」を甘くしたよう。

・柴胡加竜骨牡蠣湯:(小心っぽい方の)ビクビクドキドキに(神経性心悸亢進症)。尚、牡蠣(ボレイ)とはカキ(貝)の貝殻。

13,利水剤

五苓散:体の中の水分を一定化する漢方。小児(=細胞外液の比率高い=水分の動きが大きい)の嘔吐下痢に頻用される。嘔吐への効果はかなり高く、他の西洋薬を使いにくい1歳未満でも使用しやすい利点あり。熱中症初期、悪天候に伴う頭痛、乗り物酔いにも有効。二日酔いにもとても有効(黄連解毒湯+半夏瀉心湯「宴会セット」とは異なる作用機序の印象。)

・茯苓飲:食道-胃の蠕動を正常化。効果発現まで一定の時間要する場合あり。逆流性食道炎・繰り返すげっぷに使用。

・小半夏加茯苓湯:つわり等、激しい嘔吐に使用。

半夏白朮天麻湯:胃腸虚弱を伴うめまいに。起立性調節障害に頻用中。「補中益気湯のウラ処方」と言う方もいらっしゃるが、異なる作用機序の印象。小建中湯とも異なる作用機序の印象。

・当帰芍薬散:虚証の駆瘀血

苓桂朮甘湯:めまいに対し切れ味よし。特に気逆を伴う場合。

・越婢加朮湯:分泌抑制。帯状疱疹、ほてりで痒みが増悪するアトピー性皮膚炎に白虎加人参湯と組み合わせると結構有効な場合あり。

・二朮湯:五十肩 使用するなら発症早期にしたい。

14,駆瘀血

・桃核承気湯:漢方最強の便秘薬。下痢をしたら服用回数を減らす。

・桂枝茯苓丸:中間ー実証の駆瘀血

・通導散:便秘+気鬱に。治打撲一方より大きな範囲の皮内出血等に。

治打撲一方:名前の通り打撲の治りを早くする漢方。